脱退一時金とは
脱退一時金とは、日本の年金制度(国民年金・厚生年金)に加入していた外国人が日本を出国した後、納めた保険料の一部を取り戻せる制度です。
日本の老齢年金を受け取るためには、原則として10年以上(120ヶ月以上)の加入期間が必要です。しかし、短期就労や留学などで数年間だけ日本に滞在した外国人の多くは、この受給資格を満たさずに帰国することになります。そのような方を対象に、払い込んだ保険料の一部を一時金として返還するのが「脱退一時金」の仕組みです。
厚生年金と国民年金の両方に適用されており、日本で働いた多くの外国人が対象となります。帰国前に必ず確認しておくべき重要な制度です。
2024年(令和6年)の改正により、脱退一時金の上限月数が従来の36ヶ月から60ヶ月に拡大されました。これにより、5年以上加入していた方はより多くの保険料を取り戻せるようになりました。長期在日の外国人の方は特に恩恵が大きくなっています。
受給条件
脱退一時金を受け取るためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
日本国籍を有する方は対象外です。外国籍の方のみが申請できます。
② 国民年金・厚生年金の保険料納付済期間が6ヶ月以上あること
保険料を6ヶ月以上納付した期間があることが最低条件です。免除期間は含まれません。
③ 日本に住所がないこと(出国後に申請)
申請時点で日本国内に住所(住民票)がないことが必要です。出国前には申請できません。
④ 年金(老齢・障害・遺族)を受けたことがないこと
日本の年金(老齢年金・障害年金・遺族年金)を一度も受給していないことが条件です。
⑤ 出国後2年以内に申請すること
日本を出国した日(住民票を抹消した日)の翌日から2年以内に申請しなければなりません。この期限を過ぎると権利が消滅します。
永住資格(永住者)を持っている方は、脱退一時金を申請できません。また、脱退一時金を受け取ると、その期間の年金加入記録が消滅します。将来日本に戻る可能性がある方、または社会保障協定締結国の方は、申請前に必ず慎重に検討してください。一度申請すると取り消しはできません。
厚生年金 脱退一時金の計算方法【2026年度】
脱退一時金の金額は、以下の計算式で算出されます。
脱退一時金 = 保険料の平均月額 × 支給率
支給率(加入月数ごとの早見表)
| 保険料納付済月数 | 支給率 |
|---|---|
| 6〜11ヶ月 | 6 |
| 12〜17ヶ月 | 12 |
| 18〜23ヶ月 | 18 |
| 24〜29ヶ月 | 24 |
| 30〜35ヶ月 | 30 |
| 36〜41ヶ月 | 36 |
| 42〜47ヶ月 | 42 |
| 48〜53ヶ月 | 48 |
| 54〜59ヶ月 | 54 |
| 60ヶ月以上 | 60 |
計算式(厚生年金の場合)
2026年度の厚生年金保険料率は18.3%で、労使折半(個人負担9.15%)となります。脱退一時金の計算式は以下のとおりです。
脱退一時金 = 標準報酬月額の平均 × 9.15% × 支給率 ÷ 2
個人負担の保険料月額 = 300,000円 × 9.15% = 27,450円
脱退一時金(税引前) = 27,450円 × 60 ÷ 2 ≒ 約823,500円
源泉徴収(20.42%)後の手取り ≒ 約655,352円(参考値)
※実際の計算は日本年金機構が行います。各月の標準報酬月額に基づく正確な計算となるため、上記はあくまで目安です。
月収別・加入期間別 脱退一時金シミュレーション【2026年度】
標準報酬月額ごとに、加入期間別の脱退一時金概算額(税引前)をまとめました。
| 標準報酬月額 | 12ヶ月 | 24ヶ月 | 36ヶ月 | 48ヶ月 | 60ヶ月 |
|---|---|---|---|---|---|
| 20万円 | 約110,400円 | 約220,800円 | 約331,200円 | 約441,600円 | 約552,000円 |
| 25万円 | 約137,600円 | 約275,625円 | 約413,438円 | 約551,250円 | 約689,063円 |
| 30万円 | 約164,700円 | 約329,400円 | 約494,100円 | 約658,800円 | 約823,500円 |
| 35万円 | 約192,150円 | 約384,300円 | 約576,450円 | 約768,600円 | 約960,750円 |
| 40万円 | 約219,600円 | 約439,200円 | 約658,800円 | 約878,400円 | 約1,098,000円 |
※保険料率9.15%(個人負担分)・支給率を適用した概算値です。実際の金額は日本年金機構の計算に基づきます。源泉徴収(20.42%)前の金額です。
脱退一時金には20.42%の所得税(復興特別所得税含む)が源泉徴収されます。手取りは上記の約80%が目安です。ただし、日本と租税条約を締結している国の居住者は、帰国後に所轄税務署へ「租税条約に関する届出書」を提出することで還付を受けられる場合があります。
申請手続き・必要書類
脱退一時金の申請は、日本年金機構に対して郵送で行います。以下の手順で進めましょう。
日本を出国する(住民票を抹消する)
市区町村役場で転出届(海外転出)を提出し、住民票を抹消します。出国当日または出国前に手続きを済ませましょう。この日が申請期限(2年)のカウント開始日となります。
出国後2年以内に申請(帰国後でも可)
出国(住民票抹消)の翌日から2年以内に申請書を日本年金機構へ郵送します。帰国後に母国から申請することもできます。期限を過ぎると権利が消滅するため、早めに手続きを始めましょう。
必要書類を準備する
・脱退一時金請求書(日本年金機構のWebサイトからダウンロード可)
・パスポートのコピー(氏名・国籍・在留資格・出国日が確認できるページ)
・年金手帳またはねんきん定期便(基礎年金番号が確認できるもの)
・振込先の銀行口座情報(海外の銀行口座も可)
・住民票の除票(市区町村から取得)
日本年金機構に郵送で申請(または代理人経由)
書類を揃えたら、日本年金機構の「事務センター(〒168-8505 東京都杉並区高井戸西3-5-24)」宛てに郵送します。日本国内に代理人がいる場合は、代理人に提出を依頼することも可能です。
審査後、指定口座に振り込まれる(通常3〜4ヶ月)
申請書類の審査・処理には通常3〜4ヶ月程度かかります。審査が完了すると、指定の銀行口座に脱退一時金が振り込まれます。海外口座への送金の場合は為替手数料が差し引かれることがあります。
会社員として厚生年金に加入していた期間と、国民年金のみに加入していた期間(個人事業主・学生など)が両方ある場合、それぞれ別々に脱退一時金の申請が必要です。申請書の種類も異なりますので、日本年金機構のWebサイトで「厚生年金保険脱退一時金」「国民年金脱退一時金」それぞれの請求書を確認してください。
社会保障協定締結国の方は要注意
日本は現在、ドイツ・韓国・アメリカ・フランス・オーストラリア・フィリピン・カナダ・インドをはじめ、多くの国と「社会保障協定」を締結しています。
社会保障協定とは、日本と相手国双方の年金加入期間を「通算」することで、どちらかの国の年金受給資格を満たせるようにする仕組みです。たとえば日本で6年・母国で5年加入していれば、合計11年として日本の老齢年金(受給資格10年以上)の対象になる可能性があります。
協定によって詳細な内容は異なりますが、対象国の方は脱退一時金を受け取る前に、この通算制度を利用して将来の年金受給権を確保できるかどうかを確認することを強くお勧めします。
社会保障協定の対象国の方が脱退一時金を申請・受給すると、その期間の日本の年金加入記録が消滅します。これにより、年金期間の通算メリットが失われ、将来の年金受給ができなくなる場合があります。協定締結国の方は、脱退一時金の申請前に必ず日本年金機構または本国の社会保障機関、大使館に相談してください。
主な社会保障協定締結国(2026年現在)
| 地域 | 締結国 |
|---|---|
| アジア・オセアニア | 韓国、フィリピン、インド、オーストラリア、中国 |
| ヨーロッパ | ドイツ、フランス、ベルギー、オランダ、スイス、イギリス、イタリア、スペイン、スロバキア、チェコ、ハンガリー、ルクセンブルク、フィンランド、スウェーデン |
| 北米・中南米 | アメリカ、カナダ、ブラジル |
※協定の内容(通算の可否・適用範囲)は国により異なります。最新情報は日本年金機構のWebサイトでご確認ください。