帰国前にやること

納税管理人とは?出国前の届出で
脱退一時金の20.42%を取り戻す

脱退一時金から引かれた税金は、多くの場合そのまま戻ってきます。ただし出国前に「納税管理人」を決めておかないと、手続きが極端に難しくなります。

⚡ このページの要点(30秒まとめ)

目次

  1. 納税管理人とは
  2. なぜ脱退一時金に必要なのか
  3. 誰が納税管理人になれるか
  4. 届出の手順・提出先・期限
  5. 還付の仕組みと金額の目安
  6. 出国から還付までのスケジュール
  7. 出国前に届け出なかった場合
  8. よくある質問

納税管理人とは

納税管理人(のうぜいかんりにん)とは、日本を離れる人に代わって、日本国内で税務署とのやり取りを引き受ける人のことです。

日本を出国して住民票を抜くと、あなたは税法上の「非居住者」になります。非居住者は日本国内に住所がないため、税務署からの書類を受け取れず、確定申告や還付金の受け取りを自分で行うことができません。そこで、国内に住む誰かを窓口として指定しておく仕組みが納税管理人です。

💡 納税管理人がやってくれること
・税務署から送られてくる書類を受け取る
・あなたに代わって確定申告書を提出する
・税金を納付する、または還付金を受け取る

還付金は納税管理人の口座で受け取ってもらい、そこから送金してもらう形が一般的です。

なぜ脱退一時金に必要なのか

厚生年金の脱退一時金は、支払われるときに20.42%の所得税が天引きされます。これは「非居住者が受け取る退職手当等」として、一律の税率で源泉徴収される仕組みです。

⚠️ 引かれる金額は小さくありません
脱退一時金が1,650,000円なら、源泉徴収は336,930円。手元に届くのは1,313,070円です。
金額の目安は脱退一時金シミュレーターで確認できます。

引かれた税金は「取り戻せる」

ここが最も重要な点です。この20.42%は最終的な税額ではありません。

所得税法には「退職所得の選択課税」という制度があります(所得税法第171条)。非居住者であっても、その年に受け取った退職手当等を居住者として受け取ったものとみなして税額を計算し直すことを選択できる、という制度です。

退職所得には退職所得控除という大きな非課税枠があるため、計算し直すと税額が源泉徴収額を下回ることがほとんどです。その差額は還付されます(所得税法第173条)。

💡 なぜ大きく戻るのか
退職所得控除額は勤続20年以下なら「40万円 × 年数」(最低80万円)です。厚生年金に5年加入していれば控除枠は200万円。

脱退一時金が165万円なら控除枠の中に収まるため、課税対象となる退職所得は0円。つまり納めるべき税額も0円で、源泉徴収された336,930円が全額戻る計算になります。

そして、この申告をするには非居住者として税務署に申告書を出す必要があり、そのために納税管理人が要るというのが話のつながりです。「納税管理人の届出」と「20.42%の還付」は、実質的にひとつながりの手続きだと考えてください。

誰が納税管理人になれるか

特別な資格は必要ありません。国税庁は「法人でも個人でも構わない」としています。実務上の条件は次の1点だけです。

日本国内に住所または居所があること

実際に頼まれることが多い相手

相手向いているか注意点
日本人の友人・元同僚◎ 最も多い書類の受け取りと申告書の提出を頼むことになるため、事前に内容を説明しておく
日本に残る家族・配偶者◎同上
元の勤務先の担当者○会社として引き受けてもらえるか確認が必要
税理士○ 確実報酬が発生する。還付額が大きい場合は検討する価値がある
登録支援機関・監理団体○特定技能・技能実習の方は相談してみる価値がある
⚠️ 相手には必ず了承を得てください
納税管理人は税務署からの書類の受取先になります。黙って名前を書くことはできません。「何をすることになるのか」を説明したうえで引き受けてもらってください。還付金をその人の口座で受け取ってもらう場合は、送金方法も事前に決めておくと後のトラブルを防げます。

届出の手順・提出先・期限

1

納税管理人になってくれる人を決める

日本国内に住所または居所がある個人または法人。氏名・住所・電話番号・あなたとの関係を届出書に書くため、事前に確認しておきます。

2

「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を用意する

国税庁のWebサイトからダウンロードできます。A4用紙1枚の簡単な様式です。

3

納税地を所轄する税務署へ提出する

提出先はあなたの納税地を所轄する税務署長です。原則として出国前の住所地を管轄する税務署になります。e-Taxでの提出、持参、郵送のいずれでも構いません。

4

提出期限は「出国の日まで」

国税庁は提出時期を「納税管理人を定めたとき又は出国の日まで」としています。出国してしまうと原則として間に合いません。

⚠️ 帰国日が決まったら、真っ先にこれをやってください
退職や引越しの準備に追われて後回しになりがちですが、この1枚を出したかどうかで数十万円が変わります。脱退一時金の請求書は帰国後でも出せますが、納税管理人の届出は出国前が原則です。

還付の仕組みと金額の目安

退職所得の選択課税による還付額は、脱退一時金の額と厚生年金の加入年数で決まります。

計算の考え方

課税退職所得 =(脱退一時金 − 退職所得控除額)× 1/2
退職所得控除額 = 40万円 × 加入年数(80万円に満たない場合は80万円)

※加入年数は1年未満の端数を1年に切り上げます。加入20年超の場合は「800万円+70万円×(年数−20年)」になります。

ケース別の目安

加入年数脱退一時金退職所得控除課税退職所得源泉徴収額還付の見込み
3年990,000円1,200,000円0円202,158円全額
5年1,650,000円2,000,000円0円336,930円全額
5年2,200,000円2,000,000円100,000円449,240円大部分

※概算です。実際の税額は他の退職手当等の有無などで変わります。確定額は税務署または税理士にご確認ください。

💡 多くの人が「全額」戻る理由
脱退一時金の上限は加入60ヶ月(5年)分です。一方、5年加入なら退職所得控除は200万円。脱退一時金が控除枠を超えるのは、平均標準報酬額がかなり高い場合に限られます。そのため、課税退職所得が0円=源泉徴収額の全額還付になるケースが多数を占めます。

出国から還付までのスケジュール

時系列で整理すると次のようになります。還付の申告は出国してすぐにはできません。ここを誤解している方が多いところです。

時期やること
出国前納税管理人の届出書を税務署へ提出(期限は出国の日まで)
出国時市区町村で転出届を出し、住民票を抹消する
出国後日本年金機構へ脱退一時金を請求(出国後2年以内)
請求から3〜4ヶ月後脱退一時金が振り込まれる(20.42%が引かれた額)。「支給決定通知書」は捨てないこと
受け取った年の翌年1月1日以降納税管理人が「退職所得の選択課税」の申告書を提出
申告から1〜2ヶ月後還付金が納税管理人の口座に振り込まれる
⚠️ 「支給決定通知書」が申告に必要です
脱退一時金の振込時に日本年金機構から届く支給決定通知書には、支給額と源泉徴収税額が記載されています。還付申告にはこれが必要になるため、必ず保管し、納税管理人に渡せるようにしてください。母国に帰ってから紛失に気づくと再発行に時間がかかります。

出国前に届け出なかった場合

届出をせずに出国してしまった場合でも、還付を完全にあきらめる必要はありません。ただし手続きの難易度は上がります。

いずれの場合も、管轄の税務署に直接確認するのが最短です。取り扱いは個別の事情によって変わるため、一般論で判断せずに問い合わせてください。

よくある質問

納税管理人には報酬を払う必要がありますか?
友人や家族に頼む場合、法律上の報酬の定めはありません。無償で引き受けてもらうケースがほとんどです。ただし税理士などの専門家に依頼する場合は報酬が発生します。還付見込み額と報酬を比べて判断してください。
納税管理人は日本人でなければいけませんか?
国籍の要件はありません。条件は「日本国内に住所または居所があること」だけです。日本に住み続ける外国人の友人でも納税管理人になれます。
還付金は自分の海外口座で受け取れますか?
還付金は原則として日本国内の口座に振り込まれます。そのため、納税管理人の口座で受け取ってもらい、そこから海外へ送金してもらう形が一般的です。送金手数料が差し引かれる点と、誰の口座で受け取るかを事前に決めておくことをおすすめします。
脱退一時金を受け取ってすぐに還付申告できますか?
できません。退職所得の選択課税の申告書を提出できるのは、脱退一時金を受け取った年の翌年1月1日以降です。たとえば2026年11月に受け取った場合、申告できるのは2027年1月1日以降になります。納税管理人にはこのスケジュールを伝えておいてください。
国民年金の脱退一時金にも源泉徴収はありますか?
国民年金分の脱退一時金には所得税の源泉徴収はありません。20.42%が引かれるのは厚生年金分です。国民年金だけに加入していた方は、この還付手続きは不要です。両方の加入期間がある方は、厚生年金分について還付を検討してください。
納税管理人の届出をすると、何か不利益はありますか?
届出そのものによる不利益はありません。税務署からの書類が納税管理人あてに届くようになるだけです。なお届出後も、確定申告書はあなたの納税地を所轄する税務署長に提出することになります。
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執筆:西岡 達也(編集責任者・GAMATCH株式会社)

本記事は、GAMATCH株式会社が運営する「もらエール」編集部が、公的機関の一次情報をもとに作成・更新しています。金額・条件は目安であり、確定額や適用可否は各行政機関・専門家にご確認ください。編集方針と運営者情報は運営者情報に記載しています。

最終更新:2026年9月21日|参考:国税庁・日本年金機構

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